★信州くだものニュース掲載原稿
★海外「ふじ」物語〜その10

   
   南アフリカの「ふじ」

南アフリカのりんご産地は喜望峰で有名なケープタウン郊外に位置してる。アフリカにりんごと思われるだろうが、アフリカ大陸最南端のこの地域は四季がはっきりしていて山には雪も降る。歴史の教科書で習ったポルトガル人が喜望峰を発見したのは1488年。それから南アフリカの存在がヨーロッパ人に知られ歴史が動き始めた。      

その後17世紀にオランダ人が大勢入植したことによって、本格的な白人入植が始まり、りんご栽培もこれらのオランダ系農民によって始められた。南アフリカのりんご栽培の歴史は300年以上前にさかのぼり、特に第2次世界大戦以降はヨーロッパへの輸出が盛んに行なわれた。

私はこの国のりんご視察を過去に2回行なったが、りんご農場はすべて白人の経営者であり、労働者はすべて現地の黒人の人たちであった。南アフリカのアパルトヘイト政策(黒人を隔離)は廃止されたが、今も白人と黒人の貧富の差はあまりに大きい。経営規模は30ヘクタール〜1000ヘクタール規模の大りんご農場まである。主要品種はグラニースミスとゴールデンデリシャスであるが新品種としてふじ、ガラ、ブレイバーン、ピンクレディの導入が進んでいる。

203〜2004年産の最近のデータを紹介する。りんごの生産量は約75万トンほぼ日本の生産量に等しい。その内約40%が輸出され、約30%が国内向けの生食用で残りの約30%はジュース他加工向けになっている。ふじの栽培は1991年から始まり現在の栽培面積は712ヘクタールに及び、約43万ケースが輸出されている。大玉は輸出され、小玉や日焼けのりんごが国内向けに出回っている。ふじは国内でも消費者に徐々に受け入れられつつあり新稙が続いている。以前は秋ふの系統が多かったが、最近はキク、らくらく、マイラなどの系統が植えられている。南アフリカのふじ栽培の最大の課題は日焼けである。40%近いりんごが日焼けしてしまう。それでも新稙が続くのであるから、ふじは相当に魅力的なりんごとして扱われている。もっとも日焼けりんごを買ってくれる購買層が国内にあり、着色についても味が良くパリパリしていれば喜ばれるということである。品質の良いものはすべて輸出にまわる。輸出向けは袋かけも行っている。

以前、南アフリカに行った時に大変お世話になった、技術者のジューリッシュ氏に最近のふじ栽培のデータを送っていただいたが、彼の最後のコメントは「ふじはまだまだ南アフリカでは可能性を秘めたりんごで、消費者の評判も大変良く、ジューシーでパリパリの歯ごたえは今も将来も消費者に受け入れられると思う」と言うものであった。アフリカ大陸最南端のこの国でも「ふじ」りんごは確実に受け入れられ皆においしいと喜ばれている。なお余談ではあるが、私の推薦の世界の3大りんご視察地のひとつにこのケープタウンを上げたい。ワインがおいしくて景色がきれいで観光地もたくさんある。では他の2箇所はといえば、やっぱり「イタリアの南チロル」と「オーストラリアのタスマニア」でしょう。                                                                                                                                       

 果樹研究会中信副支部長

    中村隆宣