★信州くだものニュース掲載原稿
★海外「ふじ」物語〜その6
平成16年11月5日号掲載

南米チリ、アルゼンチンの「ふじ」

 南米のチリとアルゼンチンのりんご栽培には共通点が多い。特に輸出に力を入れていて、輸出業者の力が強い点が特徴的である。そしてヨーロッパ等の輸出先の消費動向が栽培品種や栽培形態に影響を及ぼしている。
産地もほぼアンデス山脈で隔たれた東側と西側に位置し緯度も似通っている。

 アルゼンチンには日系のりんご農家も多いので、ネウケン州の松井誠一さんのりんご園を紹介したい。松井さんは北海道出身でアルゼンチンに移住され、現在りんご、西洋なし、すももなどを50ヘクタール栽培している。1985年からふじの栽培を始めている。現在も農場の入り口には「ふじ園」と日本語で書かれた大きな看板が設置されている。 一時は22ヘクタールまでふじの栽培を広げた。もちろんアルゼンチンで一番大きなふじの栽培農家だった。しかし、現在は6ヘクタールまでふじの栽培面積を減らしてきている。理由は思うように収益が上がらないためだ。ふじの一級品はヨーロッパ、北米、そして台湾に輸出されているが、価格はデリシャスの5割増し程度で期待していた価格になっていない。まして、ふじは作りにくい品種である。特に日焼け果が多く収穫物の三〜四割が日焼けになってしまう状況である。これはチリでも同じ状況で栽培をやめる農場が増えてきている。ただし、最近「らくらく」などの新しい系統のふじの苗木を苗木商が売り始めたり、ヨーロッパでの人気も出てきているが、増殖につながるまでにはいたっていない。チリでも日焼けが最大の問題で改植する園が目立っている。日焼け防止ネットを設置したり、カオリンという白い粉を散布したりして、日焼け防止対策に苦労していた。チリでも比較的南の栽培地域では、冷涼な気候のため、ふじの日焼けは少ないが、そのあたりは栽培面積はそう多い地域ではない。アルゼンチン、チリ両国ともガラの増殖がすさまじい。ふじ、ピンクレディー、ブレイバーンなどの品種は販売地域が限られるが、ガラは世界中の、どの地域に輸出しても喜ばれているらしい。同じ南米でも前回書いたブラジルのふじはたいへんに好調であるが、チリとアルゼンチンのふじ栽培は今後もあまり期待できない。

 果樹研究会中信副支部長

    中村隆宣