★信州くだものニュース掲載原稿
★海外「ふじ」物語〜その7
       平成17年1月15日号掲載

イタリアの「ふじ」

昨年の3月にイタリアの南チロル地方で行われた、国際わい性果樹協会の研究会に参加した。そこでふじについて驚かされた事が二つあった。一つ目は昨年の南チロルで新植されたりんご品種で一番多かったのが何と、ふじであったこと。二つ目は「キク」というふじの存在である。以前長野県で行われた「世界ふじ研究発表大会」でもふじの食味の良さがヨーロッパで認められつつあること、「キク8」という系統が良いとの発表がされていたが、ますますそれらの事柄が進行していた。現在ヨーロッパのフランス、イタリアなどの苗木商でふじの苗木を探すと、「ラクラク」と「キク」の2系統があると言われる。私もある事情から昨年ヨーロッパでふじのM9  自根苗を探したが、このニ系統しか販売されていなかった。そして、「キク」の方が値段が高い。「キク」という名前は以前弘前大学で教授をされていた菊池卓郎先生のキクである。1990年に菊池先生はイタリアからの視察者を青森県内のりんご農家に案内した。その時に青森の何件かの農家から譲り受けたふじの穂木に番号を付け、南チロルに持ち帰り試験場で栽培試験を行った。その結果、その中の8番目の系統、つまり「キク8」が有望とされ、試験を経た後「キク」として商標登録がされ、ヨーロッパ全土から今や世界に向けて販売がされている。菊池先生に日本で「キク8」が入手できるのかと質問したことがあったが、先生の答えは入手不可能とのことだった。この「キク」がここまで広まったのには一人の人物が深く関わっている。彼の名前はブラウン氏、南チロルに住む苗木商である。今や会社を立ち上げ「キク」の商標を得、世界に販売している。「キク」の苗木が「ラクラク」より高いのはこの理由である。苗木にロイヤリティをかけている。たまたま日本から持ち帰った穂木が彼に莫大な利益をもたらしている。毎年イタリアで「キク」祭りを開催し、数年前には青森を訪れ穂木を譲り受けた農家にお礼に行ったとも聞く。彼にはレストランで夕食をご馳走になり、自宅で楽しい時も過ごさせていただいたので、感謝しているが、その商魂のたくましさには驚かされる。その強引さに異議を唱える人もいるようではあるが、確実にふじの歴史の1ページに彼の名前は刻まれるであろう。そして、もうひとり、イタリアでのふじの普及に永年たずさわったベルツ氏の名前も忘れてはならない。彼は何回も長野県を訪れている。イタリアにおけるふじの栽培の先駆者である。余談であるが彼のりんごコレクションはすごぃ、2000個を越すコレクションには目を見張った。

   果樹研究会中信副支部長

    中村隆宣