★信州くだものニュース掲載原稿
 平成16年 4月25日と6月5日号掲載
★果樹経営と所得について
  今年2月に行われた果樹研究会中信支部総会の後、研究会の植田会長に講演をしていただいた。その中で会長は「果樹経営者はしっかりと毎年の所得目標を立てるべきだ。いったい誰が一番儲けているのか。目標とする経営が見えてこない。」といった話をされていた。実際、他人の経営は気になるが、表立って公表している人は誰もいないのだから、想像してみるだけで確かなことは分からない。果樹経営特にはりんご園経営と所得について、私なりの考えを少し書いてみたい。

 まず、誰が一番儲かっていそうか?たぶん大きくやっている人に違いない。例えば長野県農業法人協会の会員でりんご関係の法人が現在8法人ある。私の知っている範囲ではその中の北信にある2社の売上が上位だと思う 1社は2億円を超え、もう1社は3億円を越している。栽培面積はどちらも5ヘクタール前後なので、実際に自社生産した農産物でそれだけの売上を上げているわけではない。しかし、農業者としてこの売上は魅力的である。そして、将来の売上目標を1億円以上に設定できる人がいたらそれはすばらしいと思う。私の会社は現在、成園を8ヘクタールと育成園を2ヘクタール持っているが、とてもではないが1億円などという売上目標は立てられない。

さて、皆さんも同じだと思うが、畑を見て、経営規模を聞けばその農家の売上の予想はだいたい見当がつく。1反の売上は50万から80万円。そして、ほぼ標準的な専業農家の売上は60から70万だと見ている。私の目標売上は反当70万円である。反当3,5トン(製品として売れるもの)で1キロ200円で売ると70万円という数字が出てくる。8ヘクタールあるから、5,500万円が売上目標である。実際の経営では売上から経費をひいた所得が重要であるが、その所得率はまちまちだと思う。平成12年に農水省から出た果樹農業振興基本方針によればりんご経営の所得率を55%に目標付けている。私の感覚ではおおむねこの位でいけそうな気がするが、規模が大きくなるに従ってこの所得率は落ちて行く感じがする。規模が小さかった頃はこの位の所得率の確保はできたが、昨年の私の所得率は何と約30%にまで落ち込んでしまった。今年の目標数値をクリアーするため、昨年の末、生産性の低い園地を65アール伐採して、新品種を新稙した。また、今年以降収益性の低い王林35アールを縮小したいと思っている。やっと近頃王林を10アールにまで落としたが、また新たに借り受けた園地に王林があり面積が増えてしまった。経費削減の対策は中々立たない。もちろん最大の経費は人件費で経費中の約25%を占めているが、こちらの削減は簡単ではない。経営規模はそれぞれ違うが、比較する場合は1ヘクタールに換算して数字を出し比較したいと思っている。その単位で検討するなら世界のどの経営者とも1クタール換算で比較すればよいし、1人栽培面積1ヘクタールという観点からも、比較できれば非常に興味深いことになる。

 さて、今年3月イタリアの南チロルで国際わい性果樹協会の研究会が行われ参加させていただいた。以前、南チロルでは長野県でいう「らくらく果樹栽培」ということで、地上で7割の仕事をする低樹高が目標とされていた。しかし、現在は樹高目標は3,5メートルになり、支柱の上にパイプをつぎたした園が目につく。また新稙園の支柱はどこも高く、4ートル近くある。研究会の発表の中で南チロルのりんご栽培について、その目標を1早期多収、品質向上、3作業性と述べられていた。優先の順位は番号順である。南チロルのりんご農家の栽培面積は小さい。5クタール作っていれば相当の大きな農家である。つまり、小さい経営面積にとって多収はどうしても最優先とされるわけである。儲かる品種であることがまずは、一番重要であることはどこの国でも間違えないが、次に重要なことは早期多収である。日本においても、早期は我慢するとしても、多収が経営を左右すると私は考えている。品質も重要であるが、まず売るりんごがたくさんなければ売上が伸びる訳がない。もちろん1本の樹にたくさん成らせて極端に負荷をかけるという意味ではない。反当4ン位が目標でよい。しかし、実際その4ンですら平均してとっている農家は少ないのではないだろうか。いずれにせよ限られたスペースにびっしりとりんごが植わっていなければ勝負にはならない。

以上今回私なりの経営感覚について書かせていただいた。植田会長の言われる通り、こういった経営そして数字のことは、恥ずかしい面もあるけれど、もう少し話題にしていってもいいのではないかと私も思う。

()安曇野ファミリー農産

 代表取締役 中村隆宣

南安曇郡三郷村温2280−3