「認定医療法人」制度と民間企業参入問題

「認定医療法人」制度創設の方向

厚生労働省は、地域住民の経営への参加や経営についての情報公開などを条件に、 税制上で優遇する「認定医療法人」制度を創設する方針を固めました。「認定医療法人」に対しては、〈1〉経営情報の積極的な開示〈2〉住民参加による評議員会の設置〈3〉患者へのきめ細かい医療情報提供――などを求め、経営の透明性を確保します。その一方で、優遇措置として、他の医療法人よりも法人税率を低く設定するほか、公募債による資金調達を可能とし、安定した経営を維持しやすい環境を整えるとしています。

「認定医療法人」の問題点は・・

「認定医療法人」の基本的な要件は、次の4つに集約されています。
(1)  非営利性の徹底
(2)   公益性の確立
(3)   効率性の向上
(4)   透明性の確保
(5)   安定した医業経営の実現

そこで、まず、非営利性、公益性という観点から、既存の特定医療法人、特別医療法人制度とどう関わってくるのかを考えてみます。ここでの焦点は、出資持分の放棄と過大な利益の制限及び地域が必要としている医療の提供にあり、これを担保するための制限的条項がどれだけ入ってくるのかというところです。少なくとも従来の特定医療法人、特別医療法人の制限を下回る条件は期待できないと考えるべきでしょう。

次に掲記との関係でクローズアップされるのが税制との絡みです。公益性の担保のされ方次第で社会福祉法人などの公益事業体との整合性の観点から非課税もしくは低率税率の適用、広い範囲での収益事業の容認が視野に入ってくることになります。ただし、この点、特定医療法人の認可要件、社会福祉法人の要件を睨んだ対応となると思われることから、収益性を阻害するさまざまな条件が入ってくるだろうと思われます。

効率性の観点では、「認定医療法人」をめぐる様々な規制が経営の自立性や創造性の阻害となり、医療資源を節約できる効率化に繋がるかどうか問題があると思われます。率直に言って、中長期的に見ると「公益性の高い事業=非効率」が一般的な公式であり、歴史的な経緯を勘案すれば否定できない現実でしょう。


住民が支える??

認定医療法人」には、財務等の透明性を求めるとともに地域住民などにも情報を開示して地域の住民が支える仕組みづくり、具体的には、資金調達の面で公募債が発行できるようにするという考え方が見られます。しかし、各種の制限で自立的な経営が行えない、しかも収入面では財政事情から拡大が見込めない事業に対し、一般投資家が医療機関にとって有利な条件での起債に応じてくれるとは到底思えません。公募債の引き受け先として想定されているのが地域の住民と企業ということだそうですが、こうした制限的な起債が公募債と呼べるかどうかはともかくとして、引き受けてもらうには相当の動機付けが必要になるでしょう。

また、非営利法人の資金調達において本来最も低コストで良いとされる「寄付」については、わが国の税制上の制約があり、かつまた富の平均化というわが国固有の事情があり、なかなか難しい面があります。(社会福祉法人などに対する租税特別措置法40条第1項の規定に基づく非課税の譲渡に当たるような税制上の手当てがなされるかどうかが焦点です)


なぜ株式会社参入ではいけないのか


 掲記公募債のかなりの部分を特定の企業が引き受けるということになると、民間企業の病院経営参入という事態になります。民間企業の参入問題は古くから議論されていますが、堂々巡りを繰り返すのみで前に進んでいません。「認定医療法人」制度は、世間一般に行われている規制緩和の観点から見ると、これに逆行するものです。一般的に規制緩和は競争を促進し「良貨が悪貨を駆逐する」面があり、他方、弱肉強食が色濃く現れる面がありますが、現在の時代背景においてはプラス面が大きいのではないかと思われます。

 他方、医療法人側から見ると、営利事業を医療法人という形態の中でやる必要があるのか、という考え方もできます。営利事業をいろいろな形で手足を縛られながらやる必要はない、といえるわけで、現に経営感覚の優れた医療法人の経営者は一般事業会社を設立して営利事業を展開しています。

医療分野に関していえば、競争が促され、より良い医療の質が求められるためには、行政主導ではなく、利用者主導の仕組みづくりのために行政がサポートすることが求められます。医療分野は労働集約的な産業分野ではありますが、効率化のために資本集約的な対応も求められます。この点で、「認定医療法人」制度ではカバーできない数々の問題点があることは明白と思われます。