シックスクール対策について

 

松本歯科大学病院 福沢正人

 

 私は、娘の小学校のいわゆるシックスクール問題で、薬剤師の立場から主に測定法に関して意見を述べ、薬事新報第2252号(2003年2月13日) と2285号(2003年10月2日)の「シックスクール問題について」で報告いたしました。

今回は、学校教育課から「シックハウスを考える会のシックハウスアドバイザーとして学校の先生方に話をしてほしい」という依頼があり、教員研修用の原稿を作成しましたので報告いたします。

私は、2002年12月にシックハウスを考える会の会員となり、アドバイザー講習会と資格試験を受けました。シックハウスを考える会の目的は、シックハウス問題の解決に向けて健康で安全な居住環境を提供する使命をもつ企業、客観的な事実をつかむ事の出来る研究者、そして消費者が情報を交換し合う場を提供し、健康な住宅を求める人たちがそれを手に入れるための手助けをしてゆくことです。

 では、お手元の資料1「一人一人の児童生徒が安心して学習できる学校環境をめざして〜県立学校のシックスクール問題対応マニュアル〜」(埼玉県教育委員会 平成15年3月)
http://www.pref.saitama.jp/A20/BT00/kenkou.html
をご覧ください。

これは、埼玉県教育委員会が、学校におけるシックハウス症候群、いわゆるシックスクール対策を推進するため、シックハウス症候群、化学物質に起因するアレルギーの予防措置、化学物質に過敏に反応する児童生徒への配慮などをまとめ、埼玉県内の市町村教育委員会及び全公立学校に配布したものです。あまりうまくありませんが最初から読んでみます。

長野県においても「シックスクール問題対応マニュアル」の作成と配布が一日も早く行われることを強く希望します。

今回お話させていただくにあたり、「学校の先生方にシックスクール対策について話をして欲しいと依頼されました。 学校生活上の注意を中心に話をしようと思っています。資料等をご紹介ください。また、こんな話をしてはどうかというようなご提案、ご意見がありましたら教えてください。」と全国のシックハウスアドバイザーに情報提供をお願いしてみました。同時に複数の関連団体や専門家にEメールで情報提供をお願いしました。

まずここで、情報をお寄せいただいた皆様方に深く感謝申し上げます。

紹介していただいたホームページは、
CS(化学物質過敏症)支援センター http://www.cssc.jp
化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
シックハウス連絡会 http://www2.ttcn.ne.jp/~MCSmeeting/index.html
化学物質過敏症情報 http://www2d.biglobe.ne.jp/~chem_env/env2/mcs.html

住まいの化学情報センター http://www.kcn.ne.jp/~azuma/index.html です。

ここで、シックハウスを考える会のホームページも紹介しておきます。

シックハウスを考える会 http://www.sickhouse-sa.com/

 紹介していただいた書籍は、

「環境ドラック あなたの子どもはなぜキレる」 船瀬俊介薯 築地書館 1500円

「夢のわが家で泣かないために 欠陥住宅・シックハウスの実例から学ぶ被害調査記録100」建築ジャーナル編 企業組合建築ジャーナル 2600円

「脱化学物質ブックレット2 シックハウスとシックスクール」 化学物質過敏症支援センター編 化学物質過敏症支援センター 1000円

「ある日化学物質過敏症」 山内稚恵著 三省堂 1400円

「シックハウス事典」 (社)日本建築学会編 技報堂出版 2200円 です。

次に、お寄せいただいたご意見等を紹介していきます。

医師の方からは、次のようなご意見をいただきました。

「シックハウスを考える会のアドバイザーとして話をされる場合は、シックハウス症候群と化学物質過敏症との混同についての誤解を解消するための内容を含めておいたほうがいいと思います。また、過敏症ノイローゼや嗅覚過敏についても説明が必要かもしれません。
 しかし、この辺りの領域を自己判断(または教員のなかで医学的判断)しないように忠告しておかないと、教員で話し合って医師の診断なしに勝手に「心身症」と内申書に書いてしまって、家族から訴えられた事件の二の舞になります。」

さらに、「マスコミでは重症の方を盛んにクローズアップしているので、化学物質に耐性が低い人や、医師に「過敏症」と診断された人の心に、恐怖心や過剰な(神経症的な)防衛行動を引き起こしている実態があります。
 ここに、化学物質過敏症ノイローゼ(実際はほとんど問題がない、または軽症であるのに、気に病んでしまう・あれがいけないこれがいけないと思いこんでしまう)が発生する背景があります。インターネットでの情報源も、重症者を中心に展開されています。
 少なくとも、普通の家屋で生活ができて通学もできているなら重症ではありません。」とのことでした。

先生には、お忙しい中何回もご指導いただきましたが、私にはご指摘のあった内容を正確に説明することができません。

 化学物質過敏症のお子様を持つお母様からは、次のようなご意見をいただきました。

「今、学校で基準値をオーバーしてシックハウス症候群もしくはそれの学校版でシックスクール症候群といわれているようですが、同じ環境下でも
@濃度を下げて症状が出なくなった人
A打撃を受けて今後の生活や教育に響く人
B何も症状が出なかった人
C濃度を下げるまでそのままいられないので転校する人
に分かれると私なりに解釈しました。この中で、症状が出た人のことをシックスクール症候群っていうのかなと思います。
また基準値より低くても新築をきっかけに症状が出たものもシックスクール症候群というのかな?
そして
@そうならないように気をつけましょうってことと
Aそれによって一時期被害が出てしまった人の今後の学校生活
Bまた尾を引いてしまった人の今後の学校生活
においては注意事項が違うと思います。学校生活で何か不都合が出る人の場合は、保護者と学校が話しをして個別対応だと思います。もし、体に打撃があったならそれなりに病院に通う必要がありますし、特に対応には気を付けるべきだと思います。」
同時に、「全体の学校の中にある化学物質の総量を出来るだけ減らせる方向に、もしくは子供が浴びないように、配慮しながら使うなどの注意が必要です。
例えば、校庭の農薬散布や、机とかロッカーとか棚とか学校の備品を買うときに気をつけるとか、理科の実験など化学物質を使うときは換気をよくする。図工でも接着剤、油性マジックなどを使うときは化学物質ですから、換気をする、気分が悪くなった子供がいたら、すぐに廊下にだすとか、そういう問題です。
床などのワックスでも化学物質の濃度があがりますから、予防としては夏休みなどの前に塗るとか、または予算があればなるべく化学物質が多く含まれてないもの、人によって何がいいか悪いかも違うので、何がいいとはいえませんが、どちらにしても換気は十分にすること。
 それと、1つ大事なことは新学期が始まる日はずっと休みで締め切っているので前の日、もしくは朝早く窓を全部あけて十分換気をして空気を入れ替えてください。」と具体的に教えていただきました。
石川県のアドバイザーの方からは、次のようなご意見をいただきました。
「学校の運用時に使われる薬剤等について少し意見を述べさせていただきます。
 たとえば、ゴキブリ・ねずみ駆除剤(成分は農薬のことが多い)、ワックス(可塑材、溶剤)、校内樹木の殺虫材(農薬)などです。運動場の白線に消石灰(水酸化カルシウム)を使っている場合もかぶれや発疹を起こす子供がいます。(炭酸カルシウムに切り替えると症状が出なくなりました)
学校で使用しているワックスやゴキブリ・ねずみ駆除剤のMSDS(製品安全データシート)を学校教育課に取り寄せてもらえばいかがでしょうか。きっと、内容を読めば、散布時期等の対応を取る必要があると考えられると思います。
 学校には、ワックスも駆除剤も必要と思います。天然素材は高いし、駆除効果も化学品にくらべ低いようです。しかし、現行の品物を使っていても運用面でかなり改善できると思います。
 私達が係わっているところでは、ワックスの回数を減らし、入学式等の前のワックスがけをしない(普通なら式の前にピカピカにしたいところですが)などの配慮がされています。また、駆除剤も夏休み等でかつ子供の登校が少ない時期を選ぶ等、運用面で考慮されています。
 資料については、その学校(地域)の特色もあるでしょうから、先生方とどのような事(作業)が子供に影響があるかひとつひとつ一緒に考えられたらいかがでしょうか。私の係わっている学校では、学校施設・設備等における化学物質の点検チェックリストをつくり対応しています。
 チェクリストは、著作権の問題もあり、一存では出せませんので、ここでは、記載例をお知らせします。

施設・設備 該当物質           対応
 
 
廊 下   ワックス            使用する製品、回数を検討(休業中に2回程度)
        掃除用モップ         薬品を使用せず現行通り実施

 
教 室   ワックス            廊下のワックスに同じ
        チョーク            白チョークは対応製品
        ホワイトボードマーカー   業者に問合中

 
運動場   石灰             消石灰から炭酸カルシウムに変更済み

 
校庭等   樹木防虫消毒       害虫を発見したら速やかに枝を切る。大量発生まで進んだ場合は、保護者に連絡の上薬剤噴霧

 このような対応表を、理科室、音楽室、美術室、技術室、保健室、トイレ、教材等、学校生活のあらゆる場面での化学物質を想定し、対応を決めていきます。学校や地域により異なると思いますので,その地域用のリストを作られたら良いと思います。」ということでした。
これを機会に、教育委員会、学校、PTAが話し合ってこのようなチェックリストを作成することを提案します。本日お集まりの皆様もぜひご協力ください。
北海道のアドバイザーの方からは、次のようなご意見をいただきました。
「・日常的なワックス、授業用品、化粧品、スプレー剤等生徒の持ち込み、教師の喫煙、化粧品等、新品の教科書等が影響します。タバコはもちろんですが女性教師の化粧品・香水・整髪料等も人によってはかなり辛いと聞きます。版画の板に薬剤処理されていたケースもあったそうです。         
 ・換気設備の無い場合または、機械換気が付いているが有効な換気がとれてない場合の対策は、教師の窓開け習慣の徹底です。特に、パソコン教室は、ホルムアルデヒド、VOC(揮発性有機化合物)濃度が高いので、有効な換気扇の取り付けが必要です。
 有害建材等がわかった場合にはリフォームが必要です。
・これから新設する学校の場合には、有効な換気システムの設置、ホルムアルデヒド、VOC対策を行った建築が予防になります。また、家具、備品にも配慮する必要があります。」などのアドバイスをいただきました。
化学物質問題市民研究会からは、次のようなご意見をいただきました。
「シックスクール症候群とはどんなものか知らない先生がほとんどかかもしれませんので、具体的な事例を話してあげると理解しやすいかもしれません。CS支援センターで出している症例集や、週刊金曜日の348号(01年1月26日号)が役立つかもしれません。
 それから、先生方にぜひお話してほしいのは、タバコの問題です。子どもたちは喫煙に悩まされています。ぜひ学校は禁煙にとお話ください。
 また、文部省で出している通達や衛生基準などの公的な対応についても教えてあげてください。」とのことでした。
それでは、お手元の資料2「健康的な学習環境を確保するために〜有害な化学物質の室内濃度低減に向けて〜」(文部科学省 平成14年2月)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/020601.htm
1ページをご覧ください。ここでは、以下は略させていただきます。
お手元の資料3「化学物質の子どもガイドライン〜室内空気編〜」(東京都 平成15年1月)  http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/kanho/news/h14/presskanho0301242.html
http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/kanho/news/h14/image/kodomoair.pdf
1ページをご覧ください。ここでは、途中は略させていただき、最後の、17ページをご覧ください。
 お手元の資料4「学校環境の中の有害物質リスト(1)・(2)」(田口誠道氏作成)(表1)は、平成14年10月に長野県教育センターで行われた学校安全教育指導者研修会でも配布されたものなので、皆様はすでにご存知かと思いますが、ここでもう一度、主な発生源と代替策の例を読んでみます。
 
表1: 学校環境の中の有害物質リスト(1)・(2)
 

 最後に、平成14年度PTA文集「あれい」から武居みささんの「シックハウス問題から考える『便利』から『少しの不便』へ」を紹介いたします。

 「娘が通っている学校でシックハウス問題が起きた。その言葉は、以前から知っていたし、随分前だけれどテレビで、アメリカの女性がシックハウスにより、化学物質過敏症になり、自宅から一歩も外へ出られないという悲惨な番組を見た事もあった。でも、そのテレビの内容と、娘が通っている学校で起きた問題を同レベルで捉えていなかった。捉えられなかった理由の一つに情報隠しという問題と、そこから来る情報不足がある。濃度が基準値の何倍と言われても、その数値を判断する材料が少なく、又、関係者からの説明も、「窓を開けていれば大丈夫なレベル」というような楽観的なものだったからだ。

 その後、二度程、シックハウスの講演会を聞いたり、本や資料などを見てこれは重大な問題だと気付かされた。また、学校だけではなく、身近な家庭にも化学物質が沢山あることを知った。知らず知らずのうちに多くの家庭でも安易に使っているものが多いのではないかと思い、是非紹介したい。

 まず第一に家庭の中で最大の化学物質(空気汚染)は、タバコであると言われた。幸い我が家では吸う人はいない。ぜんそくや、アレルギー疾患とも関係があり、息子が小さい頃、協立病院の矢崎院長に、義父がタバコをやめるよう言われた事を思い出した。

 第二に、玄関やトイレの芳香剤。これに関しては空気汚染と知っていたので購入はしていない。炭や、活性炭吸着マットタイプを置くなどしている。

 第三にタンスの防虫剤。これに関しては汚染物質との認識がまるでなくて、年二回購入しては、せっせとタンスやクローゼットに入れていた。考えてみれば、昔の人は薬物を使わずに、虫干しという方法で対処していたではないか。

 第四に洗剤類。アクリルタワシを使用しはじめて、台所用洗剤は、ほとんど使わずにすむ様になった。しかしトイレ用洗剤、風呂用洗剤と、いく種類も分けて購入していた。考えてみれば、石鹸とクレンザーに変えれば一本あれば用が足りる。このように書き出せばキリがない。

 現時点では、娘に症状はないが、大人になるまで、今回の影響がどう出るかはわからない。少なくとも、これ以上化学物質に影響されない生活をしていく事しか自衛の方法はないとの事だ。

 私も含め、今の大人達が便利さに流され、広告に踊らされている生活を見直す必要を感じる。子供達が、少々不便でも、何が大切かを自分で考え判断していくことができるように。」