◆ 小太郎伝説  = 4 = (4/5) ◆

= Geological_Topics =

 


■ 『小太郎伝説』の歴史的背景など

あくまでも私的な解釈による、『小太郎伝説』が生まれた歴史的背景などを探ってみます。

民話には、大蛇,龍,河童,天狗,鳥,狐などの生き物が登場します。
そうした特性から、小太郎の母が”竜/龍”であっても不思議ではないのですが・・・。

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母ノ犀龍我ガ姿ヲ恥ジテ湖水ニ入リ隠レヌ。

母・犀龍は、龍であったため、その姿を卑下したのでしょうか?
ひとつの説として、
 ・郵政公社信越支社のホームページ(バックナンバー/信越むかし話)
    http://www.shinetsu.japanpost.jp/
に掲載されている『小太郎伝説』に共感してしまいます。
母が龍と化したのは、耕地の狭さ/不毛さに起因することを知った小太郎は、
耕地を拓くことを決意した、というものです。

塩尻〜松本〜豊科〜大町と、松本平(まつもとだいら:松本市一帯の盆地)を縦断する車窓からは、
北アルプスの麓に広がる穀倉地帯を臨むことができます。
とても、農地の狭さや不毛さなど、考えもつきません。

安曇野・・・から想像/連想される光景。
北アルプスを背景、透きとおった湧水が流れる川、水田、道祖神、水車小屋、etc、etc。
あたかも「水がきれいで豊富」といったイメージですが、
実際にこの光景が適用できる地域は、梓川,高瀬川,穂高川が合流する周辺です。
中房川(なかぶさがわ),烏川(からすがわ),黒沢川などの扇状地で形成される安曇野は、
扇状地であるがゆえに、もともと農耕に用いる水は極めて少なかったのです。
史実としては、貞享義民の百姓一揆(1686年)や拾ケ堰建設(1816年)などから、想像できます。

一方で、高瀬川に沿う大町市から松川村,池田町といった北の安曇野はどうでしょうか。
現在でこそ、治水利水用のダムが建設され、穏やかな姿をしている高瀬川ですが、
かつては暴れ川だったのです。
流域の人々は、長い歴史の中で、幾度となく水害に苦しめられてきたのです。

『小太郎伝説』の一節、広大な安曇野は湖の底だった。
これは、水が少ない土地/水害に苦しめられた土地、を、
言葉を代えて比喩的に物語っているようにも感じられます。

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[キッズチャンネル・ながの]の『小太郎伝説』には、
  ここから東の高梨(今の須坂市高梨あたり)というところの池には、白竜王という者が住んでおり
といった表現があります。
確かに、松本平周辺には高梨という地籍/地名が見当たりません。
なにゆえ、かなり離れた須坂市高梨となるのでしょうか。

須坂市近郊で該当しそうな「池」・・・、
素人考えでは、「臥竜公園」のことなのかと短絡的に推測してしまいます。
大きな池でもありますし、竜の文字も付いていますしね。
竜の文字が付く池は、まだあります。
飯山市の「北竜湖」です。
この湖にも、竜に関する伝説的なものが残されているようです。

松本平から距離的に近い所では、
上田市の通称”信州の鎌倉”塩田平(しおだだいら)があります。
『竜の子太郎伝説』発祥の地です。
塩田平の開拓(開墾)伝説ですが、
安曇野を塩田平、犀川を産川(さんがわ)、山清路を千曲川と産川の合流地点にある岩壁、などとそれぞれ読み替えてみると、ほとんど同内容となります。
塩田平も降水量が少なく、農耕用の水を確保する目的で、多くの溜池が点在しています。
確かに、「小泉」という地籍はありますが、
現行の地図上では、”竜/龍”に関連するような地名は見つけられません。

かれこれ20年以上も前に訪れた「北竜湖」、10年ほど前に訪れた「臥竜公園」や「塩田平」。
それぞれの記憶は、遠くなりにけり、です。

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『小太郎伝説』に限らず、”竜/龍”に関する民話や地名は、あちこちにあるようです。
庶民の生活の中で語り継がれているため、説話の域を脱し切れないのが現実ですが。

子どもの水難事故などを未然に防ぐため、
恐怖感を覚えるような龍や河童を、親が敢えて登場させたとも推測できます。
あの淵(渕)には河童がいて、近づくと引きずり込まれるから(危険だから)、近寄ってはいけない、
といった趣旨の民話が該当します。
すると、地域の人々の間では、そこが「河童の渕」などと呼ばれるようになったりします。

梓川,高瀬川が合流する明科町には、「竜門渕(りゅうもんぶち)」があります。
かつて、犀川には水運として舟が運行していました。
舟の運行や旅人の安全を守る竜神として、渕の主である竜を祀っていたのです。
『竜の貸しもの』という竜にまつわる民話もあります。
「竜門渕」は、現在では公園整備され、アヤメまつりやカヌー競技なども行われていますが、
幼少の頃の記憶は、
薄暗く、葦(ヨシ)が群生し、ゴゥオ〜とうなるように渦巻きながら流れる水、などなど
不気味な雰囲気さえ漂うような場所でした。
当然のごとく、竜神様がいて悪さをすると渕に引き込まれる、といった説話により、
子どもだけで安易に近づいてはいけない場所でもありました。
『小太郎伝説』とはスケールが違いすぎますが、竜に関する民話や地名であることは同じです。

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   つづく ( 小太郎伝説 = 5 = )
 

     
     

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